日本語訳
ベルリン・ブランデンブルグ放送局 (Rundfunk Berlin-Brandenburg)Kultur Radio
もう一つのピアノ
今晩フィルハーモニーの室内楽ホールで行われるコンサートは、こういう題です。謎めいているとともに、多くのことを語って
くれる題です。コンサートをするのは、日本人のピアニスト、コー・リョーケで、モーツァルト、シューベルト、シューマンを弾きます。もしもこの“もう一つのピアノ”という題が付いていなければ、全く何も変
わったところのないプログラムです。
この表題には正当性があります。というのも、コー・リョーケは、古い、今は無くなってしまったピアノ
の奏法とその響きを再び蘇らせようと努めているからです。フォルカー・ミヒャエルが、この全く特別なピアニストを紹介します。
シューベルトの即興曲 作品90の3です。 2005年4月1日宝塚ベガ・ホールでの録音です フォルカー・ミヒャエル(Volker Michael):
多くの日本の子供達と同様に、両親が努力するだけの価値があると見なしているものを、熱心、かつ勤勉に学ぶという道を歩みましたが、コー・リョーケは天才児ではありませんでした。日本の神戸出
身のコー・リョーケの若い頃に道を決めたのは、自分の出来なかったことを娘にさせたいと努めた彼女のお母さんでした。
コー・リョーケ(Ko Ryoke):
彼女はどうしてもピアノを勉強したかったんです。それは彼女の夢でした。私は5歳でピアノを始めましたが、更に良い先生にと替わっていきました。そんなことをしている時に、ある時母は路上で美しい
音楽が聞こえてくるのに気付きました。彼女がそのお家に行ってベルを鳴らすと、中からドイツ人の先生が出ていらっしゃいました。
V.M.:
60年代にはまだ、ドイツ人の音楽家は日本で容易にプロフェッサーの職を得ることが出来ました。お母さんが見つけたドイツ人のピアノの先生は、コー・リョーケに本質的な基礎を与えました。けれども
成長するに従い、ドイツの音楽(の有り様)を唯一神聖なものと見なす先生の許容の狭さが、段々若い生徒の障害になるようになりました。
K.R.:
どうしてもピアニストになりたかった訳ではありません。このドイツ人の先生は、大変に多くの音楽的基礎を持っておられましたが、その反対側で、私はもう少しピアニスティックなテクニックを学びたいと
思いました。ピアニスティックなテクニックとは何だろうか、と模索しました。ただただ、真実とは何かと探しました。
V.M.:
コー・リョーケの“真実(探求)”への道は、選りに選ってドイツへと導きました。ロシア人のピアノの先生とスペイン人の(女流)ピアニストの下へとです。 もう一つは、フライブルグの音楽大学の古い時代
の状態になっていた(グランド)ピアノへとです。1976年に、今日52歳になるピアニスト、コー・リョーケの真実探求の長い道のりが始まります。
K.R.:
その時にこう思いました。ここに、自分に全く歯の立たなかったピアノを楽々と扱うのみならず、それで美しい音楽を奏でる人が居る、と。
シューベルトの即興曲 作品90の4 V.M.: 彼女は日本に帰り、ドイツで知ったお手本のやり方を日本で教えはじめます。コー・リョーケの“もう一
つのピアノ”を何がこんなに違うものにしているのかを述べるのは、殆ど不可能です。彼女は古い録音で聞くことの出来る、メランコリックな響きをお手本としています。もう一つの大事な経験は、大変な
技を持った老調律師との出会いです。
K.R.: その瞬間に、楽器ではなくて調律師の(芸)術だ、と気が付きました。楽器は単なる素材に過ぎないこ
とにです。とても上手な調律師というものは、ピアニストの要求するいかなるピアノ像も、この原料から創り出すことが出来ます。
シューマンの交響的練習曲の第1ヴァリエーション冒頭 V.M.: コー・リョーケのピアノの様式は、初め少し慣れる必要があります。ぼやけていて、分厚く、見通しが
利かず、多声部です。今日の演奏に慣れた耳には、どれかの旋律を取り出して聞かせる明瞭さ、透明さが欠けていると聞こえます。コー・リョーケは、弦楽四重奏などでしか聞けない、実におおくの声
部をピアノで弾きます。彼女は懐古主義の一匹狼で、何十年にも渡る探求の末、音楽の市場で独自の住みかを見出しました。日本においても、今日また彼女の生活しているドイツにおいてもです。彼
女は、今は滅んでしまった演奏文化をもち続けようと努めています。
K.R.: 私は、聞いたことの無い、美しいものを見、聞き、身をもって体験しました。その上、どうしたらそれを
もう一度再現出来るか、知っています。これは、あるお料理のようなものです。一度食べたことがありましたが、突然その調理法が失われてしまいました。私はそれを知っていますし、また(そのお料理
を)作ることが出来ます。けれども、これでレストランを開くかどうかは、全く別のことです。 シューベルトの即興曲 作品90の4
日本人ピアニストのコー・リョーケのポートレートでした。彼女は、今晩フィルハーモニーの室内楽ホールで弾きます。プログラムには、モーツァルト、シューベルト、シューマンの作品が並んでいます。コ
ンサートは20時に始まります。それから、早起きした人みんなのご褒美に、私たちは今2枚招待券を用意しています。どうぞ、ベルリンのスタヂオに電話してください。番号は、30200040、もう一度繰り
返します。30200040です。今晩のフィルハーモニー室内楽ホールのコー・リョーケの切符2枚差し上げます。
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